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大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平『書物に欺かれる現代人』 「僕もそうだと思っていたんだ」このせりふは現代社会における判断の一番典型的なものです。こういう判断の累積はやがて「世論」「常識」への順応となり、ナチズムとか大東亜共栄圏とかへの、今日では不可解な追従となって…

大岡昇平『わが文学生活』 つまりぼくには、日常生活に生きている人間が、実は一つの大きな政治的な力で支配されているんだという認識があるわけですよね。

大岡昇平「わが師わが友」 「鉢の木会」の連中はみんな孤独である。徒党を組むなんて、殊勝な志を持った者は一人もいない。 「文学者なんて、どんな親友でも、いつうしろからグサリとやられるか、わかりませんからね」と、これは三島由紀夫の感想である。 福…

ずっと気分が滅入っていたけど、ラフマニノフの交響曲第2番を聴いたら少し心が軽くなった

大岡昇平『音楽による感動』 絶望は過去に固執することから生れますが、思い出によって、対象化するのは、過去から解放されることです。音楽には聴く者の思い出を正確にたどることはできないが(第一これは個人的なことです)それを喚起し、音楽の時間の中に…

自己愛の強すぎる母親は、子供にとって良い母親ではない(私の実感)

大岡昇平『武蔵野夫人』 男は彼女にとって、自分の魅力を映す鏡としてしか興味のないものであったが、それに最も敏感に反応するのが大野であったから、彼を悪くは思っていなかったのである。

大岡昇平『記録文学について』 戦争は厳粛な事実であります。日本はもう自ら戦うことはありますまいが、それだけに国際関係の微妙な一環として、国の存立をかけなければならない我々にとって、国家組織の最高の表現である戦争について盲目であることは許され…

大岡昇平『野火』 彼らは要するに私同様、敗北した軍隊から弾き出された不要物であった。(中略) しかし今その一員として彼らの間に入って、私は彼らが意外に平静なのに驚いた。内に含むところあるらしい彼らの表情からみて、彼らが一人一人異なった個人的…

大岡昇平『わが文学生活』 いつの時代でも社会は大体同じような構造を持っていると思いますよ。戦後の社会だけが複雑なわけはない。かりに特に複雑であるとしても、複雑であるなりに分析することが人間にはできるはずですがね。

大岡昇平 「サクラとイチョウ『朝日新聞』」 日本的美の観念は、私の育った大正時代には、それほどいわれなかった。戦争中の国威称揚主義時代に植えられた木が、今日成長して、街路や校庭を飾るようになったのである。

大岡昇平『再会』 人いきれの中で私の精神は勝手に動いていた。私に果して「従軍記」が書けるだろうか、とばかり考えていた。いくらX先生におだてられても、私は自ら顧みて自分に才能のかけらも見出すことは出来ない。青春の十年を無為に過ごし得たというこ…

渋谷、下北沢、京都、神戸、鎌倉、大磯、成城…大岡昇平の住んだ場所を歩きたい

大岡昇平『成城だより』 私は「赤い鳥」の少年投書家であり、成城高校(旧制)の第1回卒業生である。つまり骨の髄まで、自由と童心に毒された人間であった。

大岡昇平『わが文学に於ける意識と無意識』 『朝の歌』『富永太郎の手紙』『花影』『レイテ戦記』を並べてみると、私がずっと死者と交信して暮していることがわかります。

大岡昇平『文学と郷土』 今日のように交通が発達してくると、今まで隔たっていた都会と地方との距離も縮まってきます。しかしここに観光というものが介在する場合、相互に正しい姿を認めあう機会が失われてしまうのではないかと私はおそれます。今日の観光客…

大岡昇平『人間差別がたどる運命』 社会の情報化がすすむにつれて言論の果す役割は大きく、体制側にとって統制が必要になって来る。戦時中と同じように御用学者がまた発生する。彼らは論理ではなく、ただことばを飾るだけの修辞学によって管理社会を弁護する…

大岡昇平『戦争』あとがき 「国難」「非常事態」など状況の概念化、情報操作の組織化の現状にあっては、なにか事があればひどい目に合うのはまたもやわれわれ国民ではないか。

大岡昇平『人間差別がたどる運命』 社会の情報化がすすむにつれて言論の果す役割は大きく、体制側にとって統制が必要になって来る。戦時中と同じように御用学者がまた発生する。彼らは論理ではなく、ただことばを飾るだけの修辞学によって管理社会を弁護する…

大岡昇平「成城だより」 事件は支配者の好むことしか伝わらない。

大岡昇平『遺稿(ひとむかし集)』 次の原発事故は、日本かフランスだろうといわれている。ところが日本は電気も余っているが、銭も余っているので、世界で原発を増設しようとしている唯一の国だそうだ。出力調整なんて数やっていれば、確率的にリスクは大き…

大岡昇平『俘虜記』 私は既に日本の勝利を信じていなかった。私は祖国をこんな絶望的な戦に引きずりこんだ軍部を憎んでいたが、私がこれまで彼等を阻止すべく何事も賭さなかった以上、彼等によって与えられた運命に抗議する権利はないと思われた。

大岡昇平『私の読書法』 しかしその頃私は小説を楽しみだけのために読んでいたのではありません。これから入って行く、大人の世界がどういうものであるか。人生とは何か、を知ろうとして、読んでいたのです。近代文学はただ面白おかしくスリルに富んでいる、…

大岡昇平『再会』 ただ私は「書く」ことによってでもなんでも、知らねばならぬ。知らねば、経験は悪夢のように、いつまでも私に憑いて廻る公算大である。

大岡昇平『俘虜記』 アメリカの美人達はいずれも人に見せる顔をしていた。或る美人は眉を大きく釣り上げて無意味な放心を示し、別の美人は口角を小さく釣り上げて無意味な笑いを浮かべていた(こういう見せるための顔面筋肉の運動が、すべて上方に向かってい…

大岡昇平『成城だより 付 作家の日記』 夕刊で「二俣事件」無罪確定の報を読む。「八海事件」といい、この事件といい、昭和二十五、六年頃の日本の裁判はどうかしていた。最高裁が盛んに差戻しをやるのはいい傾向だが、気になることが一つある、被告の数から…

大岡昇平「歴史・人間・文学」 いまの読書には、ダイジェストで読むという要素が入っていますからね。漱石も鴎外も、古典としてよく読まれているようですけれども、教科書で一部を読んで、文庫本で1冊か2冊読む、あとは読まなくなってしまうというのが実情…

大岡昇平『狡猾になろう』 人がそのおかれている社会的条件を知ろうとする意志を失う時は、最も煽動に乗り易い時である。

大岡昇平『少年』 私はこんな文章を書いているため、この頃渋谷のもと住んでいたあたりを歩く機会が多いのだが、木も家もすっかり変わっているのに、道はその勾配や曲り方まで、昔のままなのに、少し驚いている。都市ではすべては変るが、変らないのが土なの…

大岡昇平『俘虜記』 下士官は既に軍隊内のその位置に快適を感じ、自己の個人的幸福のためにも、この組織を支持する意識を持ったエゴイストである。彼らは特権によって誘惑された者どもであり、特権ある者は常に堕落するのである。

大岡昇平「無罪」新潮文庫あとがき なによりも「真実のすべて」が法廷に出るという原則は、有罪になるにせよ、無罪になるにせよ、当事者にとっても、人民にとってもよいことだと思われます。 判事や検事の専門家意識、司法権力を行使するという強権意識、そ…

大岡昇平「文学の運命」 戦後二十年、私はもう五十六歳である。この先何年生きられるか。日本はこれからどうなろうと、よし人類が滅亡しようと、どっちでもいいといえないこともない。しかし将来に幸福の可能性を持った若者たち、私の娘や息子はどうだろうか…

大岡昇平『成城だより III』 本年度中に防衛費GNP1%を越すこと、閣議決定。なんでも閣議できめ発表するのなら、議会討論など無意味だ。