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大岡昇平が私たちに教えてくれること

2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

大岡昇平『武蔵野夫人』 父の死を聞いた彼の最初に感じたのが、一種の解放感であったと書けば、読者は彼を人非人と思うかも知れない。しかしこれは事実であった。彼は前線で多くの人の死ぬのを見、死がどれほど面倒を省くものであるかを知っていた。

大岡昇平『小説の効用を疑う』 二十世紀の空虚の中で、人間は生きるのは苦しい。結局文章に現われた困難の感じだけが、こんにちこの時まだしも所謂カタルシスをもたらすことが出来るのではないでしょうか。

大岡昇平「『野火』の意図」 「主人公の姿はいつも眼に見えていなければならぬ。さもないと不可解になる」 「細部には平静が支配していなければならぬ。その中で主人公だけが狂って行く」 とノートに繰り返しています。狂気や神という架空のものを読者に納得…

大岡昇平『野火』 彼らは要するに私同様、敗北した軍隊から弾き出された不要物であった。(中略) しかし今その一員として彼らの間に入って、私は彼らが意外に平静なのに驚いた。内に含むところあるらしい彼らの表情からみて、彼らが一人一人異なった個人的…

大岡昇平「愛について」 霧の中にいるような気持が、私を去らなかった。すべてはぼんやりとしたヴェールに包まれている。平凡な銀行員としてすごして来た、それまでの自分の生活全体が、そんな工合だった、ということに思い当った。

大岡昇平『戦争』 一度大きな軍事予算を組んでしまうと、拡大した設備は使わないと損になりますから、どんどんふくれ上がっていくでしょう。二・二六事件の時、軍事予算を出ししぶった高橋蔵相が殺されたんだけど、その次の蔵相が軍部の要求をのんで予算を大…

大岡昇平『花影』 二十年東京の消費生活の波間に漂つて、衣裳を更へるやうに男を更へて来た女の心に澱んだ虚無である。葉子がこれまで生きて来たといへるかどうかが疑問なら、いま彼女が生きてゐるかどうかも疑問である。 酒と男の間にすごされた生活が、実…

大岡昇平「憂楽帳」 ソ連のハボマイ、シコタン不返還の覚書は、近ごろ不愉快なニュースであった。 新安保条約は、いくら岸首相が美辞麗句を並べようとも、危険な軍事同盟であることは、かくすことはできない。 従って、それではどうぞ、新しい基地をお作り下…

大岡昇平『読書の弊害について』 過ぎ去った戦争中の生活について、われわれは思い出があり、回顧物を読めば、それらはかき立てられずにはいないが、刺戟されて生じた思想や感情をいくら重ねても、われわれが通過した時代について、確乎たる観念に到達するこ…

大岡昇平『武蔵野夫人と地図』 小説の舞台に選んだ土地は、無論実地調査しなければならないが、地上の歩行する我々が、眼で見得る範囲は知れたものであって、付近一帯の地形の概略を呑込んでなければ、眼前の風景がよく理解できないものである。

大岡昇平「朝の歌」 その不断の訪問癖にも現われているように、中原は結局人なつっこい男だったのである。 自分の流儀でみんなと仲良くしたかったのだが、それぞれ自分の領分と人との附合いを使い分けるのを原則とする都会では、それがかなわなかった。しか…

私は人形じゃない

大岡昇平『舞妓』 しかしお客の方では、彼女たちを一人の人間として見ないことは、昔とかわりはない。まあほんとに可愛いわね。一体なにを食べて生きてるのーーなんて言う女客もいるにちがいない。いつもは客に見せる顔をつくり、お客の「舞妓はん」のイメー…