大岡昇平bot

大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平『読書の弊害について』

 過ぎ去った戦争中の生活について、われわれは思い出があり、回顧物を読めば、それらはかき立てられずにはいないが、刺戟されて生じた思想や感情をいくら重ねても、われわれが通過した時代について、確乎たる観念に到達することはない。

 すべて思想は自ら考えて達すべきであって、人から教えられるべきものではないのである。

 考えながら読む習慣を作らない以上、われわれがいつまでも夢中歩行の状態に止るのは明白である。