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大岡昇平が私たちに教えてくれること

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

大岡昇平「朝の歌」 東京人同士だけ通じるらしい些細な言葉のやり取り、仕草、それらを知らないためにのけ者にされたような感じ、早く符牒に通暁したいという焦慮等々、今から思えば死ぬまで中原から離れなかった一種の劣等感を、私は最近外国に一人旅をして…

大岡昇平「花影」 葉子はむかしから、なにかをしようとする時、これはしない方がいいのではないか、してはいけないのではないかと、逡巡に捉われることがある。

大岡昇平「花影」 結局松崎は自分勝手な夢を見続けていた。教壇から彼自身あまり自信のないことを教える時も、家庭で妻と娘を愛するふりをする時も、彼には姿勢がなかった。自分が生きていないと感じる時、肉と生命に見放されたような葉子の姿が、却って生き…

大岡昇平「『事件』ができるまで」 当時、私は大磯に住んでいて、中央林間の相模カントリークラブとの間を車で往復していた。平塚、厚木から寒川、茅ヶ崎へかけての田園が、工場用地へと変って行くのを目撃した。青少年の離村傾向、それらの地区の犯罪の増加…

大岡昇平「朝の歌」ー中原中也伝ー 大正十二年中原中也は山口県立中学第三学年を落第した。八番で入学した優秀児童が、七月の学期試験に五十番、二年進級の時百二十番と順次落ちて行って、遂にこの結果を見たのである。 地理歴史等暗記物が駄目だったと伝え…

大岡昇平『俘虜記』 その第一の印象はまづこれ等よく発達した裸形の男性の肉体の集団の効果であった。(略)虚弱な中年男の肉体を持つ私にとつて、それ等はいづれも或る種の動物的圧迫を私の肉体に及ぼさずにはおかなかつたが、万物の霊長として、肉体ばかり…

大岡昇平『愛について』 そして梶本のような年齢と社会的地位に達した男性に、昼下がりのホテルの情事が、社会的に許された行為である、という錯覚を起こさせるような時代になっていたのである。これは民主主義社会の爛熟と共に、マスコミによって生み出され…

大岡昇平『野火』 死はすでに観念ではなく、映像となって近づいていた。私はこの川岸に、手榴弾により腹を破って死んだ自分を想像した。私はやがて腐り、さまざまの元素に分解するであろう。三分の二は水から成るという我々の肉体は、たいていは流れ出し、こ…

大岡昇平『作家に聴く』 昭和九年国民新聞社に入った。はじめ学芸部にいたが、まもなく社会部に移った。これもスタンダールの影響だ。彼の作品や生涯を読んでみると、いろんな経験をしている。考え方も、狭い文学の世界だけにちぢこまっていないで、商人にも…

大岡昇平『書物に欺かれる現代人』 「僕もそうだと思っていたんだ」このせりふは現代社会における判断の一番典型的なものです。こういう判断の累積はやがて「世論」「常識」への順応となり、ナチズムとか大東亜共栄圏とかへの、今日では不可解な追従となって…

大岡昇平『事件』 成績の優秀なものから判事になり、それから検事、弁護士と、だんだん下って行く戦前の階層意識は抜き難いのである。裁判官には依然として強い職権意識があり、自らの判断が最良の判断である、他人の言うことなんか聞く必要はない、と考えて…