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大岡昇平が私たちに教えてくれること

2024-01-01から1年間の記事一覧

大岡昇平「中原中也の思い出」 当時中原の話題にはこうして巷で拾った印象や挿話が多かったが、そこには正確な観察眼と同時にどんな平凡な事実からも豊かな人間的意味を演繹する健康な論理的能力が示されていて、それは彼が時々開陳する人生と芸術に関する、…

「書くことが己を救う」ように、読むことも己を救う

大岡昇平『私の読書法』 しかしその頃私は小説を楽しみだけのために読んでいたのではありません。これから入って行く、大人の世界がどういうものであるか、人生とは何か、を知ろうとして、読んでいたのです。近代文学はただ面白おかしくスリルに富んでいる、…

大岡昇平『嚙みつき帳』 彼の政策といえば、アメリカのいうなりになるということだけである。グラマンでなければロッキードを買い、自衛隊を増強して、旦那のお望みなら、太平洋水域のどこにでも「戦力」を派遣出来るよう、条約改定をやってのけようという、…

大岡昇平『野火』 私が発病し、世話になるばかりで何も返すことができないのが明らかになると、はっきりと冷たいものが我々(補充兵)の間に流れた。危険が到来せずその予感だけしかない場合、内攻する自己保存の本能は、人間を必要以上にエゴイストにする。…

依存傾向のある人が増えている気がする

大岡昇平『愛について』 どんなささやかな片隅の幸福も、人間の信念と努力の上に築かれるものである。現代の巨大な管理社会の組成の一人として、機械的な生活を送る者でも、人間が理性的動物である以上、社会が作った枠を越えて無限に拡がろうとする欲望と、…

大岡昇平『戦争』 まあ、そんなことしてて、飲み代を翻訳で稼ぐってんで、やるんだけど、昼間勤めて、夜は二時、三時まで翻訳して、それで朝起きて出勤するってのは、これはなかなかつらかったですよ。 それでもまあ、少しずつスタンダールを読みこんでいっ…

大岡昇平『成城だより』作家の日記1957年11月13日 1930年代の爆撃機の発達は、やはり戦争を不可能にするだろうといわれていた。開戦後48時間以内に、交戦国の基地、工場は破壊されるということだった。しかしそんなことがちっとも起らなかったため、どんなひ…

大岡昇平「事件」 宮内辰造は少し小説などを読んでいたのかも知れない。場面の描写はなかなか堂に入ったものである。あるいは岡部検事と話しているうちに、次第に場面を小説的に作り上げて行ったのかも知れない。 供述というものは、実は小説に近いのである…

法律の文章が長くて複雑な理由

大岡昇平「事件」 大抵の起訴状は切れ目なしの一文であるが、それは末尾に示される犯罪事実が、一連の状況、動機、故意のひとつの結果であることを示すためである。主語があいまいであろうとなかろうと、罪となるべき事実がそこに明らかに示されていれば、そ…

大岡昇平「野火』 名状しがたいものが私を駆っていた。行く手に死と惨禍のほか何もないのは、すでに明らかであったが、熱帯の野の人知れぬ一隅で死に絶えるまでも、最後の息を引き取るその瞬間まで、私自身の孤独と絶望を見究めようという、暗い好奇心かも知…

文章を書くということ

大岡昇平「文章の創造」 人が自分で書く以上、どんな文章でも創造されているということができます。小学生の綴り方から、文学者の創作に至るまで、変わりはありません。ただ、主として詩人、小説家についてだけ、「創造」という言葉が使われるのは、彼等の文…

現状を分析したうえで方針を立てなければ、ひどいことになりそうだ

大岡昇平『俘虜記』 現在の状態がどういう種類の政治的暴力の結果であるかがわかれば、おのずからそれに対処する方針も出て来るわけだ。方針なくただ習慣に従つているのは、つまり彼等が知ろうとしないからで、これもやはり専制の連続によつて彼等の得た怠惰…