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大岡昇平が私たちに教えてくれること

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

大岡昇平『僕はなぜ文学青年になったか』 鈍才の劣等感と感傷を持っていた僕は、同情のある少年であったらしい。新聞に出た両親に棄てられた貧乏少年のために、貯金を渋谷署へ持って行ったことがあり、金王八幡のお祭りの日、一円の小遣いを全部参道の乞食に…

大岡昇平『事件』 村の様子がかわり始めたのは、終戦後、五キロ北の厚木、座間が進駐軍の基地になってからである。多くの村の若者達が、設営や清掃に狩り出されて行った。 (略) 金田町の若者達は、もはや農民とは言えなかった。田圃は親父の代までで終りだ…

大岡昇平『事件』 ペリイ・メイスンのように、決定的証人を航空機で連れて来るというような離れ業は、アメリカでも推理小説の中でだけで起ることで、むろん日本の現実にはあり得ない。自ら証拠を収集する力のない日本の弁護士は、専ら検察側の提出した証拠を…

大岡昇平『俘虜記』 それは私がこの時独りであったからである。戦争とは集団をもってする暴力行為であり、各人の行為は集団の意識によって制約乃至鼓舞される。もしこの時僚友が一人でも隣にいたら、私は私自身の生命の如何に拘らず、猶予なく撃っていたろう…

大岡昇平『実名小説の書き方』 先般僕が東京へ出た時に泊る明舟町の福田家で、偶然三島といっしょになったことがある。その旅館の女中さんには、無論人格円満の僕の方が人気がある。

大岡昇平『〔追悼II〕雑感』 三島由紀夫の文体の特徴は、その絢爛さの底にある一種の平凡さである。これはわれわれを取り巻いている外界(言葉もその中に入る。言葉はわれわれが生れた時にはすでに存在し、われわれはそれを習得する)から、無差別に取り込む…

大岡昇平『少年』 私は何者であるか、幸福だったか、不幸だったかーーこれはスタンダールが五十歳の頃自分に発した問いであるが、私は『アンリ・ブリュラールの生涯』を読む前から、この問いを何度か自分に発した。(略) 戦争中の話はもう繰り返したくない…