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大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平『少年』

 私は何者であるか、幸福だったか、不幸だったかーーこれはスタンダールが五十歳の頃自分に発した問いであるが、私は『アンリ・ブリュラールの生涯』を読む前から、この問いを何度か自分に発した。(略)

 戦争中の話はもう繰り返したくないが、必要なことだけいうと、一九四四年、フィリピンの駐屯地で、近い死が予想された時、私は再び自分の生涯を回想した。その時私は三十五歳、人生の道の半ばにいたわけだが、私は過去の詳細を検討して、私とはなんとつまらない人間だ、フィリピンの山野で、無意味に死んでも惜しくはない人間だ、という結論に達した。