大岡昇平bot

大岡昇平が私たちに教えてくれること

2021-01-01から1年間の記事一覧

大岡昇平『噛みつき帳』 オリンピックはアマチュアの争いだから、出さえすればいいのである。そして全力を尽すだけでいいのだ。会場まで日本へ持って来て、汚職の種をふやさすことはない。オリンピックまでに銀座の電車線路をはずせとか、東京の下水を完備し…

大岡昇平『文学と郷土』 今日のように交通が発達してくると、今まで隔たっていた都会と地方との距離も縮まってきます。しかしここに観光というものが介在する場合、相互に正しい姿を認めあう機会が失われてしまうのではないかと私はおそれます。今日の観光客…

大岡昇平『わが文学に於ける意識と無意識』 『朝の歌』『富永太郎の手紙』『花影』『レイテ戦記』を並べてみると、私がずっと死者と交信して暮していることがわかります。 (略) 以上、私が理性によって捉えた、私の文学的生涯です。この観点から洩れたもの…

大岡昇平『野火』 絶えず増大して進む生命という仮定は、いかにも近代人の自覚心に媚びる観念であるが、私はすべて自分に媚びるものを警戒することにしている。事実私の現実の生活において必要なのは、私が前進している自覚ではなく、抵抗物を見きわめ、乗り…

大岡昇平『俘虜記』 美人写真とても同じことだ。写真も現代のように進歩して来ると、なかなか「真を写す」どころではなく、現実にはありえない照明を工夫したり、修正を加えたり、浮世離れのした色をつけてみたり、理想化の手段を凝らして来る。しかもその土…

大岡昇平『日本の近代文学』 もっとも天才という言葉は現代でははやらなくなりました。小林秀雄さんなどは、現代一番権威がある文学者です。批評家というよりは人生の教師としてあれだけの人はいないでしょう。しかし、ベートオヴェンやモオツァルトが天才と…

大岡昇平『俘虜記』 しかしこうしてお伽話のように閉じ籠められてしまった我々の生活は一体なんだろう。おそろしいのは、この生活がいつまで続くかわからないことである。強盗犯人すら刑期というものを持っているのに。

大岡昇平『エンターテインメントとポストモダン』 日本は現在マルクス主義に対して、アメリカの「アカ恐怖」並みの認識くらいしか持たない人がいますが、その理論は資本の集中が強まり、管理主義が一般化するにつれて、経済と権力との癒着を解きほぐす方法と…

スタンダール 大岡昇平訳『恋愛論』 絶世の美人も二日目にはそれほど驚かせない。これは非常に不幸なことで結晶作用を頓挫させる。彼女らの値打は誰にもわかり、勲章みたいなものである。彼女たちの恋人のリストにはばか者が多いに相違ない。大公とか百万長…

大岡昇平『狡猾になろう』 人がそのおかれている社会的条件を知ろうとする意志を失う時は、最も煽動に乗り易い時である。

大岡昇平『愛について』 どんなささやかな片隅の幸福も、人間の信念と努力の上に築かれるものである。現代の巨大な管理社会の組成の一人として、機械的な生活を送る者でも、人間が理性的動物である以上、社会が作った枠を越えて無限に拡がろうとする欲望と、…

大岡昇平『東風西風(人命尊重)』 とにかくわが国の民主主義と称するものが、われわれの生命をあんまり大事にしていないことはたしかである。 EXPO70が、ばかばかしいお祭りさわぎにすぎないということをわれわれはみな知っていた。うかれているのは、それ…

大岡昇平『事件』 裁判官はいつも事件に追っかけられて、馬車馬のように走っているのである。遅延の結果、幸福の追求を阻まれる当事者に対して、最初はすまないような気がしていたが、いつの間にか、なれっこになってしまった。要するに自分は巨大な組織の一…

大岡昇平『東風西風(人命尊重)』 とにかくわが国の民主主義と称するものが、われわれの生命をあんまり大事にしていないことはたしかである。 EXPO70が、ばかばかしいお祭りさわぎにすぎないということをわれわれはみな知っていた。うかれているのは、それ…

大岡昇平『愛について』 「やさしさだけが愛ではないのです。醜い地球の生活で、四六時中、妻にやさしくしていられるはずがありません。特別なものとして、まつり込まれていただけです。あなたが何をいっても怒らず、さからわず、いたわりだけで愛される。こ…

大岡昇平『僕の読書法 ⑶』 傑作といふのは何等かの形で著者の全精神が現はれてゐるもので、それは二遍や三遍読んだくらゐではとてもわかるものではないと信じます。自分の気に入つた本は、飽きるまで何度でも読むこと。これはその本のみならず著者の全精神を…

大岡昇平『俘虜記』 現在の状態がどういう種類の政治的暴力の結果であるかがわかれば、おのずからそれに対処する方針も出て来るわけだ。方針なくただ習慣に従つているのは、つまり彼等が知ろうとしないからで、これもやはり専制の連続によつて彼等の得た怠惰…

大岡昇平『三十八年目の八月に』 わけのわからないことが、行われるなかで、たとえその効力に疑問があるにしても、記録にとどめておくべきだ、と思っています。

大岡昇平『愛について』 どんなささやかな片隅の幸福も、人間の信念と努力の上に築かれるものである。現代の巨大な管理社会の組成の一人として、機械的な生活を送る者でも、人間が理性的動物である以上、社会が作った枠を越えて無限に拡がろうとする欲望と、…

大岡昇平『わが文学に於ける意識と無意識』 現在、私は『レイテ戦記』の準備をしています。『野火』を書いた時、乏しい資料、俘虜からのあやふやな聞書によって、レイテ島の陸上戦闘の詳細を誤り伝えたのを恢復するためです。私の主題に深くかかわらないとし…

大岡昇平『俘虜体験 復員』 大久保へは夜着いたんですが、家がなかなかわからなくてねえ。やっと見つかって「足ありまっせ」って入っていったですよ。女房は神戸の人間だから、ぼくも家で喋る時は関西弁だったんですよ。

大岡昇平『中原中也の思い出』 こうした中原の観察はめったに間違わないものだった。彼はいつも自分の感覚しか語らなかったが、彼は決して嘘を吐かなかったし、何より自分の感覚を正確に表現することに気をつけていたから、その言葉は常に外界の何物かを伝え…

大岡昇平『戦争』 昼間勤めて、夜は二時、三時まで翻訳して、それで朝起きて出勤するってのは、これはなかなかつらかったですよ。 それでもまあ、少しずつスタンダールを読みこんでいったわけです。スタンダールってのはフランス大革命からナポレオン戦争、…