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大岡昇平が私たちに教えてくれること

俘虜記

現状を分析したうえで方針を立てなければ、ひどいことになりそうだ

大岡昇平『俘虜記』 現在の状態がどういう種類の政治的暴力の結果であるかがわかれば、おのずからそれに対処する方針も出て来るわけだ。方針なくただ習慣に従つているのは、つまり彼等が知ろうとしないからで、これもやはり専制の連続によつて彼等の得た怠惰…

大岡昇平『俘虜記』捉まるまで 私は既に日本の勝利を信じてゐなかった。私は祖国をこんな絶望的な戦に引きずりこんだ軍部を憎んでゐたが、私がこれまで彼等を阻止すべく何事も賭さなかった以上、彼等によって与えられた運命に抗議する権利はないと思はれた。…

大岡昇平『俘虜記』 その第一の印象はまづこれ等よく発達した裸形の男性の肉体の集団の効果であった。(略)虚弱な中年男の肉体を持つ私にとつて、それ等はいづれも或る種の動物的圧迫を私の肉体に及ぼさずにはおかなかつたが、万物の霊長として、肉体ばかり…

大岡昇平『俘虜記』 私の体は強健ではなかつたが、病に対して比較的抵抗力があるのを知つてゐた。私は細心に自分の症状を観察し、療法を自分で工夫した。熱のためすぐ下痢が始まつたのを見て、消化器に無益な負担をかけないために(これがその時の私の考へで…

大岡昇平『俘虜記』 駐屯中多くの兵士が日夕点呼後の短い時間に、暗い椰子油の燈火の下で、熱心にその日の出来事や感想を綴り続けた。 私の職業は俸給生活者であるが、一方古い文学青年として、この種のナルシシスムを意識して嫌悪してゐた。私の考へでは、…

大岡昇平『俘虜記』 美人写真とても同じことだ。写真も現代のように進歩して来ると、なかなか「真を写す」どころではなく、現実にはありえない照明を工夫したり、修正を加えたり、浮世離れのした色をつけてみたり、理想化の手段を凝らして来る。しかもその土…

大岡昇平『俘虜記』 しかしこうしてお伽話のように閉じ籠められてしまった我々の生活は一体なんだろう。おそろしいのは、この生活がいつまで続くかわからないことである。強盗犯人すら刑期というものを持っているのに。

大岡昇平『俘虜記』 現在の状態がどういう種類の政治的暴力の結果であるかがわかれば、おのずからそれに対処する方針も出て来るわけだ。方針なくただ習慣に従つているのは、つまり彼等が知ろうとしないからで、これもやはり専制の連続によつて彼等の得た怠惰…