大岡昇平bot

大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平『野火』

 私が発病し、世話になるばかりで何も返すことができないのが明らかになると、はっきりと冷たいものが我々(補充兵)の間に流れた。危険が到来せずその予感だけしかない場合、内攻する自己保存の本能は、人間を必要以上にエゴイストにする。私は彼らの既に知っている私の運命を、告げに行く気がしなかった。彼らの追いつめられた人間性を刺戟するのは、むしろ気の毒である。