大岡昇平bot

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大岡昇平『俘虜記』

 駐屯中多くの兵士が日夕点呼後の短い時間に、暗い椰子油の燈火の下で、熱心にその日の出来事や感想を綴り続けた。

 私の職業は俸給生活者であるが、一方古い文学青年として、この種のナルシシスムを意識して嫌悪してゐた。私の考へでは、俸給生活者としての私の生活も、兵士としてのそれも、すべて過ぎ去るに任すべきであり、文字に残して読み返すなどといふ性質のものではないのであつた。