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大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平『日本の近代文学

 もっとも天才という言葉は現代でははやらなくなりました。小林秀雄さんなどは、現代一番権威がある文学者です。批評家というよりは人生の教師としてあれだけの人はいないでしょう。しかし、ベートオヴェンやモオツァルトが天才という意味で、小林秀雄を天才というには抵抗があるでしょう。私は若い時に、小林秀雄中原中也に知り合う幸運にめぐまれて、今日の自分ができあがったのですが、天才はむしろ中原のほうにある感じでした。しかし小林さんはその長い文学生活を通じて、絶えず努力し向上を続けて、今日の円熟に達したのです。(略)

 天才というものは、若い時から人の真似のできないことをすることでもなければ、人に先んじてめずらしいものを書くことではない。自分の天性を育ててゆくことだということを、小林さんの生涯と作品が証明しているように思います。