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大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平『事件』

ペリイ・メイスンのように、決定的証人を航空機で連れて来るというような離れ業は、アメリカでも推理小説の中でだけで起ることで、むろん日本の現実にはあり得ない。自ら証拠を収集する力のない日本の弁護士は、専ら検察側の提出した証拠を攻撃し、その証明力を失わせるほかに手はないので、そのためには次の公判までの間に時間がいるのである。

 ところが多くの場合、弁護士はほかに事件をかかえているから、その件にかかり切りになることは実際上出来ない。