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大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平「事件」

 宮内辰造は少し小説などを読んでいたのかも知れない。場面の描写はなかなか堂に入ったものである。あるいは岡部検事と話しているうちに、次第に場面を小説的に作り上げて行ったのかも知れない。

 供述というものは、実は小説に近いのである。事実を述べるといっても、人はしばしばその経験を小説的に記憶し、そのように物語る。小説家の広津和郎氏が松川裁判について、被告人や証人の供述から嘘を抽出することが出来たのは、こういう共通点があるからである。