大岡昇平bot

大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平『花影』

 二十年東京の消費生活の波間に漂つて、衣裳を更へるやうに男を更へて来た女の心に澱んだ虚無である。葉子がこれまで生きて来たといへるかどうかが疑問なら、いま彼女が生きてゐるかどうかも疑問である。

 酒と男の間にすごされた生活が、実質的に死であつたと同じやうに、いまの葉子はもう生きてはゐないといふことも出来るであらう。