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大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平『私の読書法』

 しかしその頃私は小説を楽しみだけのために読んでいたのではありません。これから入って行く、大人の世界がどういうものであるか。人生とは何か、を知ろうとして、読んでいたのです。近代文学はただ面白おかしくスリルに富んでいる、というのではなく、人生の真実を描き出そうとしているので、傑作を読むのは勉強になります。

 ラジオもテレビもない時代でした。

 いまはよい教養番組もありますから、できるだけ利用するのは結構です。しかし最終的には本によってもう一度たしかめることをおすすめします。耳から聞くのは印象は強いけれど、不確かな知識で満足してしまうおそれがあります。講義を聞きながら、なんか疑問が生じたとき、話はどんどん進んで行きます。学校の先生の講義なら、あとで質問することもできますが、テレビやラジオでは、そうは行かないでしょう。

 読書の場合なら、ちょっと読むのをよして、ほかの本、辞書などによって、確かめることができます。(略)

 あまりすらすら読まないように。抵抗を感じたら、そこで立ち止まって、なぜ抵抗を感じるかを考えてみることです。そうして自分で体得したものが、本当の知識になります。