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大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平『文学の運命』

 これから先は実に長い長い物語になるので、私の青春放浪は一応これまでにする。最近三島由紀夫石原慎太郎が、私の小林や中原に関する回想を読んで、ああいう充実した青春はわれわれにはなかったと嘆いているが、私とても別に人と違った青春を送ったわけではない。

 ただ私はこのように私より年上の人たちによって、蔽われていたので、今になって検討し直さなければならないのである。私が生きたのは私自身の青春ではなく、彼らの青春だったかも知れない。私という人間の値打ちは、ことによると、小林や中原の青春の立ち会い人だったというだけかも知れないと考える。