大岡昇平bot

大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平中原中也の思い出』

彼は彼の詩が人を動かすだけではなく、彼という人間が人に認められることを欲した。彼の伝説的毒舌、無限の喧嘩は主としてこの希望が、そう簡単には実現されなかったため起ったものである。

 彼は彼の考えていたバルザックと共に、この世の定めのどうにもならないことを知っていたが、なおその上彼には詩作という「行為」があったように、彼を理解しないという定めになっている世間に対して、絶えず同じ抗議、同じ悪口を繰り返さねばならなかったのである。当時彼が説得し難い毒舌家であったのは、彼が調停者のいうことを理解しなかったためではなく、抗議者という役割を自己に課していたからにほかならない。