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大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平『書物に欺かれる現代人』

我々は(文芸作品の)読後、或いは観劇の後に、何か自分の意見をいうのをためらう傾向はないか。新聞雑誌に現われた批評によって、我々の印象が確かめられた後、始めて確信をもって何かをいうのです。文芸時評、劇評の求められる所以ですが、この場合重要なのは、その意見を、我々が自分の独力で得た判断だと思い込んでいることです。

「僕もそうだと思っていたんだ」このせりふは現代社会における判断の一番典型的なものです。こういう判断の累積はやがて「世論」「常識」への順応となり、ナチズムとか大東亜共栄圏とかへの、今日では不可解な追従となって現れます。似たような危険が、今日では皆無とはいえません。