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大岡昇平が私たちに教えてくれること

大岡昇平中原中也の思い出」

 当時中原の話題にはこうして巷で拾った印象や挿話が多かったが、そこには正確な観察眼と同時にどんな平凡な事実からも豊かな人間的意味を演繹する健康な論理的能力が示されていて、それは彼が時々開陳する人生と芸術に関する、混乱した思想と奇妙な対照をなしていた。

「書くことが己を救う」ように、読むことも己を救う

大岡昇平『私の読書法』

 しかしその頃私は小説を楽しみだけのために読んでいたのではありません。これから入って行く、大人の世界がどういうものであるか、人生とは何か、を知ろうとして、読んでいたのです。近代文学はただ面白おかしくスリルに富んでいる、というのではなく、人生の真実を描き出そうとしているので、傑作を読むのは勉強になります。

 

 

大岡昇平『嚙みつき帳』

 彼の政策といえば、アメリカのいうなりになるということだけである。グラマンでなければロッキードを買い、自衛隊を増強して、旦那のお望みなら、太平洋水域のどこにでも「戦力」を派遣出来るよう、条約改定をやってのけようという、断固たる番頭根性を持っているというだけである。

大岡昇平『野火』

 私が発病し、世話になるばかりで何も返すことができないのが明らかになると、はっきりと冷たいものが我々(補充兵)の間に流れた。危険が到来せずその予感だけしかない場合、内攻する自己保存の本能は、人間を必要以上にエゴイストにする。私は彼らの既に知っている私の運命を、告げに行く気がしなかった。彼らの追いつめられた人間性を刺戟するのは、むしろ気の毒である。

依存傾向のある人が増えている気がする

大岡昇平『愛について』

 どんなささやかな片隅の幸福も、人間の信念と努力の上に築かれるものである。現代の巨大な管理社会の組成の一人として、機械的な生活を送る者でも、人間が理性的動物である以上、社会が作った枠を越えて無限に拡がろうとする欲望と、それを制御する社会的制約との間に、バランスを保つには、意志を必要とする。

大岡昇平『戦争』

まあ、そんなことしてて、飲み代を翻訳で稼ぐってんで、やるんだけど、昼間勤めて、夜は二時、三時まで翻訳して、それで朝起きて出勤するってのは、これはなかなかつらかったですよ。

 それでもまあ、少しずつスタンダールを読みこんでいったわけです。スタンダールってのはフランス大革命からナポレオン戦争、王政復古、七月革命までの非常な動乱期に生きた人ですから、その書いたものの中に政治がしょっちゅう入っているわけですよ。そのスタンダールが書いていることと、フランスの当時の現実がどういう具合であったか、まあ、例えば『赤と黒』に書いてあるようなことと、当時の実際のフランスとはどういう関係になっていたか、そういう研究はあまりなかったんですよ。

 で、ぼくは大きな年表を壁にはりつけといて、いろんな本を読んだことをそれにチョチョっと書きこんで、、政治的なスタンダール伝を書こうと思ってたんです。

 文学と縁を切ったつもりでいながら、そういう作業だけはしてたんだねえ。

大岡昇平『成城だより』作家の日記1957年11月13日

 1930年代の爆撃機の発達は、やはり戦争を不可能にするだろうといわれていた。開戦後48時間以内に、交戦国の基地、工場は破壊されるということだった。しかしそんなことがちっとも起らなかったため、どんなひどい目に会ったか、我々はよく知っている。

 究極兵器という考えは、我々の希望的観測の典型的なもので、買収された軍事評論家がそれを利用するのである。

 人類が最後の破滅的ショー・ダウンへ向かっていることは間違いのないことだ。造られた兵器が使われずにすんだためしはない。労働者がこの兵器を製作することを拒否することが出来る日まで、だめである。